now’s the time !

映画・音楽を作る・その他の話。

 To say goodbye is to die a little

好きな本というものが、好きなレコードや好きな映画と同じようにいくつかある。
繰り返し読み、聴き、見る。
人によっては、ストーリーがわかっている本や映画をなんで何回も楽しめるの?と言う。
気に入ったレコードを繰り返しかけるのと同じことだ。そして、どんどん記憶に深く残るようになる。
レイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロー シリーズ。7冊あるわけだけれども
繰り返し読んできた。とりわけ一番読んだのは「長いお別れ」。それが村上春樹新訳で出版された。
あとがきも入れて579ページを午後いっぱいかけて読んだ。
これまでの訳との比較や、文学的ないろんなことは、きっとこれから専門家がたくさん書くだろう。
でも、あとがきで、この小説と「グレート・ギャツビー」を重ね合わせる分析を訳者本人がしていて、
チューニングのしっかりできたギターでメジャーコードを鳴らすくらいに
見通しのいい感じを自分なりに持つことができた。もちろん村上春樹もそこに重なってくるわけだけれども。


タフガイが気の効いたことを言って、事件を解決する。
ハードボイルド小説ってそんな感じのものなのかも。
でも、ぼくはチャンドラー以外の探偵小説はほとんど読んだことがないし、
読んでもあまりピンとくるものはなかったように思える。特に日本のものでは。
あとがきにこうある。
「チャンドラーは自我なるものを、一種のブラックボックスとして設定したのだ。
・・略・・自我はたしかにそこにある。そこにあり十全に機能している。しかしあるには
あるのだけれど、中身は「よくわからないもの」なのだ。そしてその箱は、蓋を開けられることを
特に求めてはいない。」
羊をめぐる冒険 でも ハードボイルドワンダーランド でも 主人公はそんな感じだ。
理不尽にトラブルに巻き込まれ、体を痛めつけられ、女の子に突然去られたりしても、
なんとか強がって、気の効いた台詞と、せいぜいため息ひとつついて 先に進むしかない。


ぼくも笑っちゃうようだけれど、きっとそんなのに憧れて、今までやってきた部分は少なくないと思うし。
これからもそうなのではないかと思う。
どこまでうまくやれているかはわからないけれど、けして様になってもいないと思うけれど。



To say goodbye is to die a little.
この台詞、今回はこう訳されていた。
「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ。」