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レコーディングで追うビートルズのアルバム! 【第一回】

MONO LP BOX 発売記念! 2009年に書いた自分の原稿のリマスター始めます。
雑誌用に書かせてもらったものを加筆・修正したブログバージョンで。
ちなみにカテゴリーの RTB は Recording The Beatles  の略なのですが、
なかなか分析は進展しておりません。では、リマスター原稿、その一。

「ステレオ・バージョンよりモノラル・バージョン!」

ビートルズがデビューした60年代はレコードはモノラルが主流であり、作る側もリスナーも、まだまだステレオというものに懐疑的だった。例えばビートルズにも関わりの深いフィル・スペクターは、ステレオ録音が主流となってもモノラルにこだわり続け、Back to MONO  と書いたバッジをつけてアルバムジャケットに映っていたりする。
さらにイギリスではアメリカよりリスナーのステレオへの切り替えが少し遅かったらしく、ピーター・バラカン氏によると彼がステレオのセットを手に入れたのも
70年に入ってからのようだ。それくらいモノラルが主流な60年代ながら、新たなハード
やソフトを売り出していきたいという企業側の意図もあり、ビートルズに関してはデビューアルバムから『イエロー・サブマリン 』まで、すべてモノラルとステレオの2種類のレコードがリリースされた。
とはいえメンバーがミックスに立ち会ったのは、中期まではモノラル・バージョンのみ(初期はミックスそのものにも立ち会わなかった。当時はミックスはエンジニアの領域であり、ミュージシャンが関わるポイントではなかった)。ステレオ・バージョンはスタジオ・エンジニアにより事務的に制作されていたようで、そのことからもモノラル・バージョンの重要性が分かるし、モノラルとステレオのどちらを聴くべきかという答えもでるかも。モノラルこそが本当の意味でビートルズ+ジョージ・マーティンが作ったものだってことかな。これはリマスターCDが発売になったばかりの頃の雑誌ではちょっと言いにくい(笑)。

 70年代に入ってレコーディングでもリスナーにもステレオが主流になっていったことに伴い、ビートルズのLPのラインアップはステレオだけが残された。普及してしまえば、モノラルよりもステレオの方がエラいってことになったのだろう。ぼくもそう思ってました。まあ、いまでもビートルズの公式盤はステレオの方。なのでリアルタイムではなく、後追いでビートルズを聴き始めた世代にとってはステレオ・バージョンになじみがあるはずだ。もちろん僕もそうである。左にバック・トラック、右にボーカルというあのざっくりとしたステレオ?音像である。
確かに聞き慣れているし、まあ、あれはあれで今や好ましく思えたり。
いまでもわざとそういうミックスで楽曲をリリースするアーティストがいたり。
あれこそがビートルズサウンド!という思い入れのある方がいるのもわかる。
でも、なぜかうちにあったヘッドホンで初めてビートルズを聴いたときの驚き!小学4年くらい?歌と演奏がばらばらに聴こえる。これがステレオってことなんだ!と思ったり(苦笑)。
なにかの加減で、右チャンネルのコードが抜けていたときの驚き。
「なんだ、このレコードは変。歌がない!」(苦笑)。それでなんかこのミックスは変だ、と思い始めた。ひとつ確認すると当時はステレオヘッドホンなんて普通の家庭にはなかったと思う。モノラルのイヤホンだけ。オーディオファンは別ね。オーディオってなんか特別の趣味だったように覚えてる。オープンリールのデッキとか持ってて。ヘッドホンで音楽を聴くのが普通になったのは、おそらくWALKMAN以降の文化じゃないかなあ。ステレオラジカセが流行ったこともあった。ステレオの機能を表現するのに使われた音源が音楽じゃなくて、左右に歩いていく足音だったりしてた記憶もある。テレビはもちろんモノラル。世間的にはモノとかステレオとかどうでもよかったのだと思うし、例えばオーディオセットのことを「ステレオ」と呼んでたりしてたので、逆にレコードにはステレオしかないくらいのイメージが70年代なのかも。そんなわけで、なかなか、モノラルのレコードを買おうとかっていう
発想はなかったんだよね。やっぱりなんかステレオの方がエラいと、ずっと。そのうちに値段があがってしまって中古のモノラルのレコードは買いにくくなっていったし、CDが出たらレコードよりもCDの方がいいやっていう時代にもなっていったし。(今はそんな風には思いませんが。)

ところで、ステレオ・バージョンを買って、パンをセンターにすればモノラルバージョンなのか。それが大間違いである。
当時はコンピュ・ミックスなどないわけで、モノラル・マスター/ステレオ・マスターを作るためにそれぞれミックスをしなければならなかった。完全に人力のミックスだから
バランスや曲の長さなどミックスのたびに違うものになる。
また、アナログの1/4インチ・マスター・テープの性能を考えれば、
トラック数の少ないモノラルの方が音質的に有利でもある。ステレオマスターでは演奏は片チャンネルだけだから、情報量は、単純に言えば半分。ミックスのテイク違いというだけではなく、サウンド的にもモノラルとステレオは別物だ。当時のビートルズジョージ・マーティンの本当の思惑を反映していたのは、モノラル・バージョンではないだろうか。いやいや、ではないだろうか、じゃなくて、そうなのである(笑)。

導入部分、はこんな感じでした。倍くらいの長さになった?
次回は2chマルチのころの話を書きます。